ALBAPIE
マルチショルダー
鞄と財布、両方の良さを活かした、
本当に使いやすいバッグを作りたい。
鞄産地豊岡で、特化した専門性と独創的なオリジナリティを見事に融合し、鞄や財布を生産する企業がある。豊岡鞄認定企業「株式会社足立」だ。
1942年、鞄材料卸として出発した同企業は、ファスナー・金具・テープ等の鞄材パーツを通じて鞄産地の生産に貢献する一方で、自社ブランド「ALBAPIE」を展開。豊岡鞄・豊岡財布認定商品を生産している。商品はいずれも、鞄の根幹であるパーツを知り尽くした強味を活かし、合理的で考え抜かれている。
「ALBAPIE」ブランドから2020年11月、「鞄」と「財布」2つの用途を兼ね備えた「マルチショルダー」が豊岡鞄認定製品として発売される。株式会社足立で鞄と財布両方の生産に携わる女性職人が中心となって企画。販売店舗「Artisan」と何度もディスカッションを繰り返し作り上げた。財布としての機能性を追求し、ショルダーとしてのクオリティも考え抜かれた「マルチショルダー」は、鞄産地豊岡から新しい風を吹かせるに違いない。
このページでは、商品が完成するまでの背景とともに作り手に焦点をあて、
想いや注目していただきたい点を、技術的なお話を交えながらまとめました。
鞄の街が本格的に財布作りをスタート。
2016年、豊岡に新しいムーブメントが興る。
鞄関連企業が連携し、財布づくりのプロフェッショナルを東京から講師として招致し、製造企業向け財布講義「Artisan School 財布講座 白熱教室」を開校する。3ヶ月間で520時間に及ぶ授業を設け、財布の知識や技術を基礎から学ぶ。このスクールに、豊岡の製造企業各社が鞄職人を派遣。2020年には、後継の「アルチザン財布専科」を開校。鞄産地は本気で財布づくりに取り組み始める。
2018年11月、「豊岡鞄®」を展開する兵庫県鞄工業組合が、新たなブランド「豊岡財布」を立ち上げた。
ブランドに「豊岡」という名称が含まれ、商品には豊岡鞄と同様に保証書が付属される。鞄づくりに誇りを持つ職人達が、プライドを懸けて生産する強い意気込みを感じる。また、「豊岡財布」とは別に、財布職人がオリジナルブランドを立ち上げ、商品を活発に生産しはじめた。
鞄と財布は、製造工程に少し違いがある。鞄は裁断したパーツをミシンで縫う作業が基本だが、財布は細かなパーツを貼り合わせるという手作業が伴う。ミリ単位の緻密さを求められ、革の端の丁寧な処理など要所に繊細な技術が必要とされる。財布に欠かせない「革」を扱う経験は、鞄づくりで一日の長がある。生き物であるが故、持ち合わせる革の個性を平らで均等な厚みで漉き裁断し、断面まで綺麗に仕上げる。鞄づくりのノウハウをミニマムに表現する財布は、精密さに美しさがある。
革に魅せられた一人の女性職人。
株式会社足立に努める三島奈三さんは、長野県から鞄の街に来た移住者だ。
「革がとにかく大好きで、革に関わる仕事がしたかった。」アパレルで縫製の仕事を経験していた三島さんは、レザークラフトを独学で学んでいたが、趣味で留まることなく「職人になりたい」明確な意思を固めていた。
地元と関西を中心に仕事を探していたところ、豊岡が鞄づくりで国内屈指の産地であることを知った。鞄なら革と関わることができる。
単身での移住を決心した三島さんは、2016年に豊岡の「鞄縫製者トレーニングスクール」に入学。3ヶ月間にわたり鞄の縫製を学んだ。
鞄関連企業が支援する同校は卒業後に鞄業界への道が開かれている。三島さんは、株式会社足立に入社することになった。
おりしも豊岡は財布づくりを始めた頃。財布職人の育成は急務であった。
「興味があるなら勉強してみるか？」
会社の後押しもあり、三島さんは入社まもなく「Artisan School 財布講座 白熱教室」に通うことになる。時間をかけて革と向き合う日々、財布づくりは、革好きの三島さんにはとても興味深いことだった。
三島さんは少しでも短期間で技術を習得するため、日々努力を重ねた。他の職人も皆そうだが、鞄の生産納期に追われる中で、時間を割くことは容易ではない。企業も職人も真剣である。
財布を学んだ三島さんは、社内で意見を交換しながら、財布の商品企画を温める。
2018年、株式会社足立のブランド「ALBAPIE」で最初の財布シリーズ「prism」4型×4色が生産された。パーツに特化した同社の製品らしく、ポイントを「ファスナー」においた。YKK社製ハイクオリティファスナー「EXCELLA light」の上品な色の輝きが最大の特長。ファスナーが映える革を選び、使いやすさを考えた緻密なアイデアを随所に散りばめた。
2019年には、セカンドシリーズとして革を仕様変更し、3型×4色を発売。「豊岡財布」の認定も取得した。
逆境にも負けず商品開発。
豊岡の財布は、少しずつ認知されはじめた。豊岡の製造企業は、続々と財布・小物の新商品を発売。2020年1月時点で「豊岡財布」認定製品だけでも40種類以上のアイテム数が生産された。
その頃、豊岡市のSHOP「Toyooka KABAN Artisan Atelier」で、色々な財布を手に取り見つめる女性がいた。三島さんである。Prismのファーストシリーズは、既に予定本数を完売する型が出ていた。「ALBAPIE」の新しい財布、次なる挑戦の構想を固めるべく、Artisanに何度も足を運んでいた。
春を迎えるころ、コロナウイルスが蔓延。緊急事態宣言が発令され外出自粛の要請が出された。
鞄産地にも影響は及び、小売店の消費が落ち込み鞄出荷量が大幅に減少する。Artisanは緊急事態宣言中、やむなく臨時休業となる。鞄製造企業は協力し逼迫した医療用ガウン生産需要に応えていた。終息の日を願いミシンを踏み続ける。三島さんもガウンを懸命に生産していた。
豊岡の鞄生産は、OEM（相手先ブランド受注生産）が大半を占め、厳しい状況が続く。それでも、近年販売チャネルが増え、生産量が伸びている「豊岡鞄®」「豊岡財布®」をはじめとした、豊岡産のオリジナル製品は歩みを止めなかった。緊急事態宣言が解除されると、製造企業は再び新商品の開発に情熱を注ぎはじめる。時代の変化に合わせた「鞄」のありかたも考え始めた。
自粛要請が落ち着くと、三島さんは再びArtisanに訪れた。店舗スタッフと新商品の細部の構造について、ディスカッションを重ねる。豊岡鞄の認定審査会で、新商品はブランド認定を見事パスした。11月の発売予定に向けた計画が決まった。時間を要してしまった分、ディテールに至るまで納得のいく形になった。
新商品の名前は「マルチショルダー」。財布+鞄、いずれにおいても高い技術を備えた、豊岡だからこそ実現した製品である。
Interview
![[ About new ALBAPIE ]](/images/column2/interview_tit_img.png)
今回はマルチショルダーというところで「財布+α」いろんなものを収めて、いろんな使い方ができるように考えました。ランチに出掛ける時、現金やカードと一緒にスマホやリップを入れて。旅行時に貴重品と必要な小物だけを入れて。
そんな様々なシーンで、このマルチショルダー1つで事足りる理想を追求しました。
苦労した点などがあれば教えてください。
ショルダーとして身に付けたまま簡単に開口できる使い勝手がポイントです。買い物時に手がふさがり、鞄から財布を取り出すアクションが無駄ですし、そういったストレスをクリアできたら良いなと。
鞄のポケットに入れてしまうとゴソゴソ探さなければならないような小物を携帯できる、という点も考えました。
背胴側のポケットをスマホが入るサイズにしたのは、本体を開かなくてもレジで決済ができるため。使う人それぞれに使いやすい仕様を考えました。
また、ショルダーベルトは最も苦労した点です。デザインや構造、革の取り都合も含めて試行錯誤し、ベストの選択ができました。
Products
三島さんの想いが詰まった製品。
お会計の時などに、ワンタッチでサッと開く口金の財布が好きです。開ける時の音が良いですよね。周りの女性からも同じような声を聞きます。
がま口は着物や浴衣にもピッタリ。たとえば、城崎温泉のちょっと贅沢なレストランでスマートに使える、革で高級感のある、がま口財布があれば良いなと思って作りました。
この口金は、財布講座で製作した口金財布を練習するために、いくつか仕入れていたもの。良い仕上がりになって、不思議な縁です。
財布は固い芯材を入れてカッチリと仕上げるものですが、今回は「豊岡鞄」の認定を目指し、鞄としての要素も必要なマルチショルダーということで、肩に掛けて持った時に重くならないように考えました。
色々な荷物を収めるという点で、ある程度の柔らかさも必要で、芯材の調整は試行錯誤を繰り返しました。小銭入れは仕切りを設けて、リップ、USB、キー等の収納を想定したサイズにしました。ファスナーが付いているから、開いた時に見せたくないものを入れることもできます。
本当に使いやすい理想的なマルチショルダーが完成。
大きく開き取り出しやすい。マチが薄くても色々な小物が収納できる。そんな使い勝手の良さがポイントです。
口金仕様と同様に、外ポケットはスマホ、リップ、リモコンキーなどを収納できるよう、ソフトな芯材を使用。カードポケットを大きめにとりましたが、無駄な厚みが出ないコンパクトな作りを追求しました。
中央のファスナーポケットとフリーポケットは、芯材の調整を何度も繰り返し、しっかり自立する張り感を保ちながら、芯材を極力薄くして風合いを大切にしました。
札室の仕切りは見せたくないものを収める。中央のフリーポケットは通帳が収まる程、余裕のあるサイズです。
Artisanに行って商品を見て、スタッフの方に意見を伺って、細部まで何度も修正して作り上げました。
生活の中に喜びをクリエイトできるような、
ワクワクするアイテムたち。
